IT業界に限らず、ネットワーク環境が整ってインターネットに誰でもどこからでも気軽にアクセスできることや、企業が業務のアウトソーシング化を進めていることなどが相俟って、フリーランスの活躍する場が増えています。ここでITエンジニアといえば、この不況下にあって人材不足が深刻化しており、売り手市場となっていますが、その反面会社勤めをしていれば連日の残業や休日出勤が当たり前という過酷な労働環境に、フリーランスという働き方を選ぶ人も増えているのです。
会社勤めをしていれば、毎月一定の給与が支払われて、社会保険にも加入でき、福利厚生も充実しているなど、安定した身分が得られます。しかしその一方で、どれだけ残業しても収入に反映されなかったり、人手不足の中で過大な責任を担わされるなど、その実力が正当に評価され難いという面も否めません。
その点フリーランスであれば、収入は不安定で、頼れる将来の生活の保障もないという厳しい現実はあるものの、実力次第では収入も高くなり、また就業規則や会社の指揮命令に服するなどといった束縛もありません。もちろんフリーランスは個人事業主として事業を行う主体であるため、事業収入がそっくりそのまま自分の手元に残るわけではありません。仕事を完成させるために必要な機材の購入や、交通費や通信費用などの経費はもちろん、税金や保険料もすべて、自分の手元から支払わなければならないのです。
そしてフリーランスであれば、自分自身の判断基準に従って仕事を選ぶことができるという点は、会社勤めと大きく違う点です。会社勤めでは会社の命令が絶対であり、営業など仕事を積極的に獲得するために走り回る必要はないとはいえ、与えられた仕事は意に染まなくても黙って完成させなければなりません。この差は自分のキャリアアップを主体的に掴み取るという面にも表れます。フリーランスであれば、たとえ単価が安くても経験することによって自分自身への投資となる仕事は、積極的に受託するなど、将来設計に合せて取捨選択できます。
その点会社勤めであれば、同じ職場に留まることによってどのようなキャリアアップが可能であるのかと考えた時に、選択肢が限られていることが往々にしてあります。
更にフリーランスの働き方は、考えようによっては驚くほど自由です。本業と思い定める仕事の他にも、自分なりに時間の都合をつけて、全く異なる仕事に携わることも可能です。リスクの分散のために、収入の柱となる事業を複数持つことは、経営戦略の基本ともいえますが、フリーランスは小規模ながら自分の可能性を広げるという意味も含めて、様々な挑戦の自由があるのです。
エンジニアにはこれまで以上の活躍の場が広がっており、その一方で高度で専門的なスキルや知識を求められるようになっています。市場で価値のあるエンジニアが稼ぐエンジニアということになりますが、その特徴として、幅広い知識や興味を持っているために引き出しが多いこと、そして学習能力が高くて未知のことにも挑戦するということが挙げられます。あるいはコミュニケーションスキルが高く、人をまとめることができたり、優れたビジネス感覚を発揮して、エンジニアならではの企画を立案し、提案できるのです。
稼ぐフリーランスになるためには、準備が肝心です。退職前にはあらかじめ退職後の生活費や事業資金を貯蓄し、同時に人脈を広げておきます。退職の申し出は、原則として1か月前でよく、退職後に税務署に「開業届」を提出します。売り込みのためのメールアドレスやホームページや名刺を作って、顧客獲得に向けて動きます。人づてに紹介を受けるのが従来通りのやり方ですが、最近はクラウドソーシングによって仕事を獲得する方法も普及しています。
フリーランスの生存率が、開業10年で1割という厳しい現状の中にあって、それでも生き残るフリーランスには、共通した特徴が見られます。それは高い基準を定めて仕事の質に妥協せず、顧客の満足度が高いということです。また事業が順調であっても、次の布石として新たな顧客開拓の策を練る一方で、無理な事業拡大を慎み、身の丈に合った経営を維持します。そして金銭は自分が責任を持って管理するなど、安易に他人任せにしないのです。
社会のIT化が進んで、エンジニアの活躍の場が更に広がったことにより、目指すべきキャリアアップが多様化しています。もちろんより専門特化したスキルや知識を極めてスペシャリストになる道もありますし、従来通りのプロジェクトマネージャを目指す道もあります。もっとも低予算で短期化しているプロジェクトの成功は、増々難しくなっています。またコンサルタントとして事業を企画立案する、あるいはITアーキテクトとしてシステム化の設計を手掛ける道もあります。
優秀なエンジニアになるためには、頭一つ抜きん出る必要があります。多忙な仕事の合間に、暇を見つけて最新の専門技術を勉強するだけではなく、広くビジネス書を読むことも大切なのです。エンジニアの仕事は想定通りに進まないことも多々あり、問題解決能力が求められる面も少なくありません。「システム×デザイン思考で世界を変える 慶應SDM「イノベーションのつくり方」」や「ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か」は、新しいアイデアや問題解決のヒントになります。
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